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コミュニケーションについて

社会に出ると概ねすべての人が他人とのコミュニケーションを求められる。僕が行政事務に携わった12年を顧みるに、コミュニケーション能力は社会人の必須スキルだ。
他人とのコミュニケーションにおける必達の条件は伝えることでも聞くことでもない。分かりやすく論理的に説明する(伝える)ことは確かに有意義だし、聞く力があるというのも重要であるとは考えられる。
だがコミュニケーションで最も重要なスキルはそれらではない。

それは『理解と納得をする・させる能力』だ。

事例としてまず新入社員に対しての僕の同僚の教育方法を示そう。
同僚は説明する際にこう言う。
「一回しか言わないからちゃんとメモをとってね」
と。なるほどその通りだし新入社員はメモ帳を片手に真剣な眼差しをしている。
しかして同僚の説明は詳らかな業務の説明にユーモアを交えた説明である。その時に新入社員は”どこが最も重要なのか”が分からないまま言っていることを必死にメモする。そうしていざ業務になると、基本的なミスや判断の誤りを生じさせるのである。

この事例の問題点は3つ。
まず説明は一回しかしないという点、次に全てメモに取らせようとする点、そして最も重大なのは相互の信頼関係にかかる問題である。

まず一つ目。「説明は一回しかしない」宣言は教育者の義務放棄である。彼は仕事の内容を理解しているから一回の説明で終えることができる。そして「一回しか言わない」宣言をすることにより、その後の新入社員の行動に対して自身の責任を逃れることができる。これは卑劣な行為であるとともに”相手が理解・納得しているか”を度外視している。

次に二つ目。メモを取らせる行為もまた教育者側の義務放棄である。なぜならば、メモに取れば覚えられる(失敗しない)作業なら、はじめからメモを作って新入社員に渡せばいいだけの話だからだ。にもかかわらず、当人にメモを取らせるということは自分の仕事(新入社員を教育すること)の転嫁であって教育ではない。そもそも業界に触れたことの無い新入社員においては”どこが重要なのか”判断できるはずがないのである。最重要点ははじめからメモを作っておくべきだ。

最後に相互信頼関係への影響である。
「一度しか言わない」宣言は、仕事についての疑義を尋ねて良いのかの判断は一切新入社員に押し付けている。そして「それ一回言ったよね」という論理的反駁に新入社員は抗うことができない。その恐怖から新入社員は誰にも尋ねることなく仕事を進めてしまう。「一度しか言わない」は最早呪いの類である。

これらの問題は全てコミュニケーション能力の欠如に端を発している。
すなわち、理解・納得を目的とせず、伝えた(言った)聞いたの問題に帰結する。
何かを他人に伝えることの目的は『相手の理解』である。決して説明者が言う(当人の言葉を使うなら伝える)ことが目的ではない。
如何に理解・納得させるかこそが肝要であり、其の時初めてコミュニケーションがとれたと言うのである。
蓋し僕のかつて勤めていた職場では、そのようなコミュニケーションはまれであった。
「前に言ったよね」
との指摘は僕を含め数多くの職員が言われた言葉である。これは呪いに等しい。要するに”会社の業務においても責任は個人にある”という誤った思想の押し付けにすぎない。(もちろん最終的に責任を被るのは管理職の方ではあるのだが)。

コミュニケーション能力の肝はそうではない。理解・納得をさせることができないならば何回でも質問には答えてやる必要があるし、それこそが企業にとっても当人にとっても最も効率が良い方法なのである。

仕事をしていると『自分の仕事』をしがちである。だが結局のところそれらの業務は『会社の仕事』を代わりにやっているに過ぎない。
「みなで一つの会社の仕事を分担してやっている」
という意識を持てば、
「一回しか言わないから」
という言葉が口を吐くはずがない。聞かずに誤ればそれは会社の損失になるのだから。

無論、だからといって教育を受ける側が
「資料(メモ)をよこせ」
という傲慢な態度にでることはあってはならない。受ける側は受ける側としての意識を持たなくてはならないのは当然である。
「全部分からない時に訊けばいいや」
と開き直っている者は、やはりコミュニケーション能力が欠如していると言わざるを得ない。教育を受ける側には理解・納得しようとする意識が必要になるのである。

要するに自らの仕事を手順書にまとめられない者は教育できる能力がないことの証左であり、手順書に書いてある通りのことをできない者はそれなりの修練が必要であるということである。
これはどちらの側も邁進していく必要があることである。無論今の僕も、自分の仕事を手順化し、一般化することができるか疑わしい、つまり能力が足りていないのだ・・・。

(´Д`)ハァ…


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